在校生ブログ

在校生インタビュー #1 ~Tracy Zeinoun~

2020.05.04 Category:在校生インタビュー

Wharton MBA Class of 2021のYと申します。現状、日本語でアクセス出来るMBA学生のインタビュー記事は日本人学生へのインタビューが殆どですが、一方でユニークなバックグラウンドの学生との交流はMBA留学の醍醐味です。特にWhartonは1学年860人の学生が所属しており、多くの学生とのネットワークを構築することが出来ます。Whartonへの留学を検討されている皆様に、Whartonでの留学生活の醍醐味の一部を感じていただけるよう、同級生インタビューを実施しました。今回のインタビュー記事はパイロットケースですが、好評であれば不定期でWharton Japan Clubウェブサイトに掲載する予定です。

今回の記事では私のLearning Team(1年生の秋学期に多くのグループワークにともに取組むチーム)のチームメイト、Tracy Zeinounを紹介します。彼女のグループワークにおける思考の深さ、仕事の速さ、リーダーシップは際立っており私はその能力を尊敬しています。

そんな彼女も私の落ち着き(単に歳を取っているだけだと思うのですが)を尊敬しているらしく、Learning Teamのグループワークがなくなった春学期以降も定期的に会って話しています。そんな友人であるTracyにこれまでの人生、Whartonでの生活、出願プロセス、そして卒業後のビジョン等について質問すべくインタビューしましたので、是非お読みください。

※尚、この記事は実施したインタビューの内容を基に執筆したものです。従って、記載内容はWharton SchoolやWharton Japan Clubの公式見解を示すものではなく、あくまで質問者、回答者の個人的見解である点、ご留意ください。また、インタビューは英語で実施していますが、同級生同士の会話を日本語で再現するためにフランクな表現を使っております。

バックグラウンド

― 今日は時間を取ってくれて有難う。改めて生い立ちについて話してもらってもいいかな?

「私はレバノンの首都ベイルートの郊外にある村で生まれ育った。家の近くに親戚も皆住んでいる環境。村に住んでいたからいい学校に通うにはベイルートまで片道1時間を通学しなければならなかった」

― それは大変だね。なぜそうしなければならなかったの?

「レバノンでは、公立学校で受けれられる教育の質が非常に悪い。例えば、公立高校を出て大学に進学するのは困難。ある程度の質の教育を受けるには小学校から私立に通わなければならないが、私立校は殆どベイルートにある。ただ、私立校の学費は非常に高い。私と弟は、将来の為にいい教育を受けたかったから両親に相談した」

― レバノンについてもう少し教えてくれる?

「レバノンの経済は長年停滞しており、政治腐敗が進んでいる。長年、一部の政治家が国を牛耳り税金を無駄遣いして国が発展してこなかった。今年は国債のデフォルトも発生した」

― なるほど。そういえば最近デモが起きていると聞いたけど。

「国の借金が膨れ上がり、増税が相次いだ。そして急速な通貨安の進展により銀行から一定の金額を引き出すこともできなくなった。そこで昨年からデモが起きている。人々は政府に抗議するためにストライキをしている。人々は政治に懐疑的になり、変革を求めている」

― そんな大変な状況を教えてくれて有難う。生い立ちの話に戻るけど、私立校に行きたい、でも両親に金銭的負担をお願いしないといけない、というのは6歳の子どもにはとても重い話のように思えるけど。

「私達と両親は常に正直なコミュニケーションを意識して生きてきたから意思を伝えるのは難しいことではなかった。母が学校の先生をしていたこともあり、子どもの教育に熱心だったから私立校に通わせてもらえたけど、私立校の学費を払うのは大変。裕福な家庭ではなかったから、両親は私達がいい教育を受けられるように必死で働いて稼がなければならなかった。でも、両親は我々に家計が大変などとは一度も言わなかった。やがて状況は好転したけれど、私が私立校に通い始めた頃は大変だったと思う。でも、両親はお金よりも大事なものがあると常に言っていたから、私達は敢えて家計について両親に聞くことはなかった」

― 素晴らしい家庭だね。ベイルートの学校ではどんな体験が待っていたの?

「村とは別世界だった。他の学生は高級官僚、大臣の子息や金持ちの子どもばかり。同級生と共通の話題がなかったし、放課後に遊ぶこともできなかった。私は1時間離れた村に帰らないといけなかったから。真の意味で友人と呼べる同級生は一人もいなかった。でも、疎外感を持っても両親に言うことはなかった。両親が苦労していたのを知っていたし」

― 当時、どのようなモチベーションで勉強をしていたの?

「私の通っていた学校は中東最高峰の大学であるAmerican University of Beirut(”AUB”)への進学率が高く、私は AUBにどうしても進学したかった。同級生も、AUBに行って家業を継ぐという人が多かったので、勉強へのモチベーションも相応にあった。でも、当時の同級生でMBAを現在考えている人は1人もいない」

― なるほど。でもWhartonにレバノン人の同級生が5-6人いるよね?

「私と同じように苦労して私立校で教育を受け、AUBに進学し、UAE、カタール、サウジアラビア等でコンサルタントとしてキャリアを築いた人ばかりだよ」

― Whartonにいるレバノン人がTracy同様にUAE等の国でコンサルタントとしてキャリアを築いたばかりである理由は何なの?

「2つあって、ひとつはコンサルティング会社がスポンサーしてくれるから。そうでないとレバノンからMBAは金銭的に困難。もうひとつはマインドセット。借金してまで教育を受けるという発想がレバノンにはない。そもそも米国と違って、MBAを取得した後に給与面でアップサイドが狙える職業がレバノンに存在しない」

― 有難う。ちょっと戻るけど、Tracyは高校卒業後晴れてAUBに合格しAUBを卒業。その後ドバイの戦略コンサルティング会社に就職したんだよね。

「そう。レバノンの外でスケールの大きい仕事がしたかった。コンサルティング会社では、政府、民間企業問わず様々なプロジェクトに参加して素晴らしい経験を得た。レバノンでは「戦略を立案し、実行し、ビジネスを拡大する」という概念が存在しない。戦略的に思考し、人を説得するプレゼンをし、ビジネスを動かすダイナミクスはかけがえのない経験で、私は大いに成長することが出来た」

MBA出願

― MBAに出願した経緯を教えてもらってもいいかな。

「コンサルティング会社で素晴らしい経験を積むことが出来たけど、更に成長するために3年間勤務した後にMBA留学を決断した。欧州という選択肢もあったが、米国一択だった。理由は2つあって、ひとつはインターン期間も含めて2年間勉強したかったこと、もうひとつは世界一のGDPを誇る米国のトップスクールで、異なったバックグラウンドを持つ優秀な同級生とともに勉強し、交流して視野を拡げたかったこと。例えば、今まで金融機関に勤める友人などいなかったし。彼ら彼女らが何を考え何をビジョンとして持っているのか、共に学びながら知りたかった」

― Whartonを志望した理由は?

「1つ目は学校の文化が気に入ったこと。出願前に私が抱いたWhartonのイメージは、『勉強を真剣にするけど、遊びも全力でする。そして協調的』というものだった。2つ目は、ブランド力。Whartonのブランド力は強く、卒業生のネットワークも強い。3つ目はロケーション。New Yorkもいいけど、あまりに騒がしい。New Yorkに日帰りで行ける距離でありながら落ち着いた街であるPhiladelphiaがとても気に入った。4つ目は教育学部の授業が受けられること。教育に興味がある私には最適だった」

― 受験生にアドバイスはある?

「Whartonで何を得たいのかを具体的に考えて、しっかりと自分の言葉で素直に語れるようになった上でエッセイを書いてほしい。Team Based Discussion(書類選考通過後に行われるグループディスカッション形式の選考)については、他人を尊重しつつも、リーダーシップを見せてほしい」

― TracyはRound 2で出願したけど、即合格とはいかず、Waitlistに入ったよね。

「そう。Round 3の合格発表のタイミングで1度だけ、Whartonに入学したいという熱意を書き綴ったメールをAdmissions Officeに送った。Admissions Officeが忙しいことは知っていたので、その点は尊重しつつも、『私はここにいる!』と主張したかった」

― いつ合格発表の知らせを受けたの?

「6月。留学生だから、かなりギリギリのタイミングだった。1年のスケジュール、受講免除すべき授業、どのような課外活動をしたいか等調べる時間がなかった」

Whartonでの生活

― Whartonに晴れて入学して、秋学期・春学期が終わろうとしているけど、これまで期待通りの日々が送れている?

「予想以上に勉強が大変だった。とはいえ不要と思える必修授業もあった。私がコンサル出身で、既に仕事で学んだ内容があるというのもあるけど。入学してくる人には既に知っている内容の授業については入学直前に受けられるWaiver Examを受験して受講免除にすることをお勧めする」

― それは私もよく志望者や合格者にアドバイスする内容だ。

「文化は期待以上。皆フレンドリーで、ベイルートの時と違って真の友人ができる。また、留学生が多いので米国の学校だからといって疎外感を持つこともない」

― 他にも期待通り、期待外れだった経験はある?

「同級生が他の同級生のことを非常に気に掛けており、感銘を受けた。例えばインターンに向けた就職活動に際して、同級生同士で面接の練習をすることがよくある。私はコンサル出身なのでコンサル志望の同級生の面接練習に何度も付き合ったが、逆に夏にインターンしたいテック企業の面接練習を同級生に何度もしてもらった。助け合いの精神が溢れている素晴らしいコミュニティだと思った。同じ業界を目指す人が多いビジネススクールではこのようなコミュニティは珍しいと思う」

― これまでの学生生活のハイライトは?

「Follies(Wharton生有志が脚本、演出、演技等全てを自ら行うミュージカル)は非常に印象的だった。参加する機会を逃してしまい、同級生の舞台を客席から見ただけだが、素晴らしい出来で、Whartonコミュニティに属していることを誇りに思えた経験だった。

他にも、トレックはいい経験だった。これまでコロンビア、コロラド、メキシコ、アルプス、ペルーに行った。同級生と旅行先で昼夜を共にして語り合い、違う文化に触れるのはMBAの醍醐味。トレックに参加することで今まで知らなかった同級生と仲良くなることもできる。特に今年コロラドで実施されたスキートレックは毎年1,000人近い学生が参加する一大イベント。行くことを強くお勧めする。

改めて振り返ってみると、8月に入学してから9か月、あっという間だった。今後入学してくる人には、1年間でどんなイベントがあるのか在校生に事前に聞いて、自分が何をしたいのか具体的にイメージすることをお勧めする。入学後の生活は本当に忙しいので。私はFolliesに参加する機会を逃して本当に後悔している。来年は参加するつもり」

― 他にお勧めしたい経験はある?

「Storytellers(Wharton生の有志が同級生200人の前で自ら伝えたいストーリーを語るイベント)も素晴らしい。定期的にあるので行けるだけ行くことをお勧めする。Whartonにいる人たちの多様なバックグラウンドを知る機会。私も来年自らのストーリーを皆に伝えたい」

― 言われてみて気付いたけど、今までMBAを志望している人達にこういったイベントのことを話したことがなかったな。

ソーシャルと言っても、パーティーばかりしている訳ではない。本当の意味で同級生とかけがえのない体験をし、同級生を知ることの出来る機会がWhartonには沢山ある。Storytellersはいい例」

― StorytellersとPre-Term(1年生の最初の3週間)で行う自己開示の為の会話は似ていると思う?

「違うと思う。Pre-Termでは、短期間で同級生の一体感を高める為に各学生がそれぞれのライフストーリーをLearning Teamのメンバーに対して語る機会があるが、Storytellersは参加者の自由意思で行うものであり、聴衆も自由意思で参加しているので、また違った雰囲気」

― ところで、2020年9月から始まる次の秋学期はSemester in San Francisco(”SSF”。サンフランシスコのサテライトキャンパスで1学期を過ごすプログラム)に参加予定だよね?

「そう。Wharton在学中に違う環境が体験できるのがSSFの魅力。教育系スタートアップでのインターンをしたり、近郊に旅行したりする予定」

― そういえば、WhartonではBusiness Analyticsを専攻予定だよね?

「そう。入学時はEntrepreneurshipを専攻しようと思っていたが、1年生の春学期にSergei Savin教授のBusiness Analyticsの授業(選択必修科目の一つ)を受講して全てが変わった。データを分析し、ビジネス判断に生かすというプロセスの楽しみを見出した。データに基づいたビジネス判断というのは今後も間違いなく重要なので、より深く勉強したい。Innovationの授業も履修したが、私が最も興味を抱いたのはBusiness Analyticsの授業だった」

― 他にお勧めの授業はある?

「Predictive Analysis、Analytics for Revenue Managementはチャレンジングだが、非常にいい授業だった」

― Whartonについてひとつだけ変えられるとしたら、何を変えたい?

「University of Pennsylvaniaのキャンパスは美しくて素晴らしいけど、Whartonに関しては少し自習や打合せのスペースが少なく感じるので、もっとキャンパスに増やしてほしい」

― 確かに、キャンパスから離れたCenter CityにはMBA生専用の勉強スペースがあるけど、キャンパス内は試験前は特にスペースが足りないかもね。

Wharton卒業後のプラン

― Wharton卒業後のプランを教えてくれる?

「スポンサーしてもらっているので、コンサルティング会社に戻る予定。ダイナミックな仕事には魅力を感じているし、Whartonで専攻予定のBusiness Analyticsを生かして活躍したい」

― 教育に興味があると言っていたけど、やがては教育系の会社を起業することも考えている?

「現時点では深く考えていない。教育系テック企業が今後先進国で伸びるだろうから、そのような事業をやがて中東で、とぼんやりとは考えているけど具体的にはまだまだ。そしてレバノンの教育は変えなければならないことが沢山ある」

― まずは政治を変えないといけない?

「真の民主主義がレバノンには必要。能力のある人たちが国を前に進めていかないと」

― Tracy、君は政治家に向いていると思うよ。

「有難う。国のため働きたいけど、今のシステムで私1人が政治家になっても変わらない。システムごと変えたい」

その他、日常生活等

― トピックが全く変わるけど、趣味は何?よく絵を描いているのは知っているけど。

「絵を描くのは好きだけど、もっと好きなのはエクササイズ。Barry’s Bootcamp(兵隊式の厳しいジム)によく行っている」

― え、そうだったの?よくやるね・・・。

「私にとって、Barry’s Bootcampは単なるジムではなく、家族のようなもの。皆とハードワークを通して結束が高まる素晴らしいコミュニティ」

― 他に趣味はある?

「最近は料理もよくする。コンサルタント時代は忙しかったけど、今はコーヒーを淹れたり、料理をしたり、友人とワインを飲んで語ったりする時間があって楽しい」

― Tracyは課外活動にも沢山参加しているし、いつも忙しい印象だけどな

「自らを忙しくすることが好きというのは、間違いない。でも、自分がやりたいことをやりたい人とやりたいだけやっているから毎日充実している」

― 今日は時間を割いてくれて有難う!

「もちろん。少しでも日本人の皆さんの参考になれば光栄だわ」

身近にいる友人と1時間じっくり話して、彼女のことをより深く知ることができました。彼女が言う通り、質の高い教育も、他では知り合うことのできないであろう同級生との交流も、MBAの醍醐味です。彼女と話して改めてこのMBA留学の機会の貴重さに気づかされました。これから夏休みに入りますが、離れた場所にいる同級生とも定期的に連絡を取り、2年生の秋学期以降はより交流を深めていきたいと思います。

(終)

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